社会保険労務士(以降本文中では社労士と記述)資格取得を目指す人が増えています。社労士になるにはどのようなスキルが必要なのでしょうか?
社労士の仕事内容・平均年収・合格率や社労士になるために必要な経験などを解説します。社労士のキャリアパスや将来性なども見てみましょう。
目次
社会保険労務士(社労士)とは
社労士の仕事内容と平均年収と試験の合格率を紹介します。どのような仕事をしてどれほどの年収を得ているのか、試験の合格率はどれくらいなのかを見てみましょう。
仕事内容
社労士の仕事内容を解説します。社労士の仕事は大別すると独占業務の1号業務と2号業務、独占業務ではない3号業務の3種類です。社労士の具体的な業務内容をチェックしてみましょう。
書類等の作成代行・提出代行
社労士は労働社会保険諸法令に基づいた帳簿書類の作成および労働者名簿・賃金台帳などの書類作成や提出代行を行います。主な帳簿書類を以下表に示します。
この中でも、就業規則書類の作成及び変更の業務は需要が高いです。常時10人以上の従業員を雇用している事業所では就業規則を作成した上で労働基準監督署長に届け出なければならないからです。
これらの書類は全て労働基準法で作成が規定されているので、作成できるのは社労士の資格を取得した人だけで、社労士以外は作成できません。
この仕事は2号業務に該当します。
労務管理労働、労働保険・社会保険に関する相談
社労士は従業員の採用から退職までの手続きや会社設立から解散までの諸手続きを代行します。
年金裁定請求手続き・労災保険給付手続きなどの事務も代行します。
以下が主な仕事内容です。
- 健康保険・厚生年金保険の算定基礎届と月額変更届
- 健康保険傷病手当金・出産手当金などの給付申請手続き
- 労働保険年度更新手続き
- 労災保険の休業(補償)給付・第三者行為災害の給付手続き
- 労働保険・社会保険の新規加入・脱退・被保険者資格の取得と喪失などの手続き
- 労働者派遣事業などの許可申請手続き
- 解雇予告除外認定の申請手続き
- 年金裁定請求の手続き
- 審査請求・異議申立・再審査請求などの申請手続き
- 死傷病報告等の各種報告書作成及び手続き
- 求人申込みの事務代理
- 各種助成金申請の手続き
この業務は1号業務に分類されます。
年金相談
年金相談も社労士の代表的な仕事の1つです。仕事内容は以下の通りです。
- 年金の加入期間や受給資格などの確認
- 裁定請求書の作成と提出
年金が受給できる時期や受給できる金額の確認も大切ですが、特に重要視されるのは裁定請求書の作成及び提出です。受給資格を取得していても年金は自動的に支給されるわけではなく、申請手続きが必要だからです。この手続きなどを社労士が行います。
この業務は3号業務なので、社労士の独占業務ではありません。しかし、年金制度は法が改正されるごとに複雑になっているので、正しい知識を得ていないと判断が難しくなることが多くなります。そのため、社会保険労務のプロである社労士が請け負うことが多い仕事です。
紛争解決手続代理業務
労働に関連するトラブルが発生した際、裁判に発展すると時間もお金もかかります。時間とお金を消費する裁判にならないよう当事者が話し合って紛争解決を目指す業務を紛争解決手続代理業務と言います。紛争解決手続はADR(裁判外紛争解決手続)とも呼ばれており、ADRの代理業務は特定社労士が請け負います。
- 斡旋の申し立てに関連する相談と手続き
- 代理人として意見陳述・和解交渉・和解契約締結
この2点が主な業務です。
ただし、この仕事は特定労務士の独占業務で、社労士の資格を得ただけでは行えません。特定労務士になるための研修を終了して紛争解決手続代理業務試験合格後に社会保険労務士名簿に付記することが必要です。
平均年収
社労士の働き方は大きく分けると2種類あります。社労士事務所または一般企業で勤務する勤務社労士と、自分で事務所を構える開業社労士です。
平均年収は、勤務社労士と開業社労士とではかなり差がありますが、まずは社労士全体の令和4年賃金構造基本統計調査の内容を性別・経験年数に分けて見てみましょう。
経験年数 | 男性 | 女性 |
1~4年 | 約730万円 | 約537万円 |
5~9年 | 約762万円 | 約566万円 |
10~14年 | 約861万円 | 約721万円 |
15年以上 | 約1,132万円 | 約677万円 |
勤務社労士と開業社労士の平均年収は以下の通りです。
勤務社労士 | 400万円~500万円 |
開業社労士 | 300万から1,000万 |
開業社労士の年収には上下に大きな開きがありました。営業努力などが伴っていない場合は1,000万円以上の年収を得るのは難しいのです。
合格率
厚生労働省が発表したここ5年間の社労士試験の受験者数と合格者数と合格者数をご覧ください。
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
2023(令和5)年度 | 42,741人 | 2,720人 | 6.4% |
2022(令和4)年度 | 40,633人 | 2,134人 | 5.3% |
2021(令和3)年度 | 37,306人 | 2,937人 | 7.9% |
2020(令和2)年度 | 34,845人 | 2,237人 | 6.4% |
2019(令和元)年度 | 38,428人 | 2,525人 | 6.6% |
合格率は5%台から7%台後半の間で推移していますが、いずれも高い合格率とは言えません。社労士試験は難易度が非常に高い資格試験なのです。
社会保険労務士になるには社会保険労務士試験に合格する
社労士になるには合格率が高いとは言えない資格試験に合格する以外にも必要な要項があります。
最初に社労士試験の2024(令和6)年度の試験日程を以下に示します。
第56回社労士試験日程
申込受付期間 | 2024年4月15日(月)~5月31日(金) |
試験日 | 2024年8月25日(日) |
合格発表日 | 2024年10月2日(水) |
申込みはインターネット・郵送で受け付けています。試験科目は合計8科目で、選択式試験が8科目、択一式試験が7科目あります。
試験科目 | 選択式(8科目) | 択一式(7科目) |
労働基準法及び労働安全衛生法 | 1問 | 10問 |
労働者災害補償保険法 | 1問 | 10問 |
雇用保険法 | 1問 | 10問 |
労務管理その他の労働に関する一般常識 | 1問 | 10問 |
社会保険に関する一般常識 | 1問 | |
健康保険法 | 1問 | 10問 |
厚生年金保険法 | 1問 | 10問 |
国民年金法 | 1問 | 10問 |
大学の一般教養課程を修了する
受験するためには学歴も必要です。資格取得に必要な学歴を見ていきましょう。
- 大学の一般課程修了または卒業
- 大学(短期大学以外)で卒業要件の62単位以上を修得
- 大学(短期大学以外)の一般教養科目36単位以上および専門教育科目などの単位を合わせて卒業要件単位(48単位以上)を修得
- 厚生労働大臣が認可した学校卒業または所定の課程を修了
- 専門職大学卒業または前期課程を修了
短大や高等専門学校を卒業する
前項で紹介した学歴以外の学歴でも資格を得られます。
- 短期大学卒業
- 専門職短期大学卒業
- 修業年限が2年以上で課程修了に必要な授業時間数が1,700時間(62単位)以上の専修学校の専門課程の修了
- 高等専門学校(5年制)卒業
- 全国社会保険労務士会連合会で個別の受験資格審査によって短期大学卒業と同等以上の学力を有すると認められた者
社会保険労務士になるための受験資格を得るには?
「学歴がないから社労士になれない」と誤解する人もいますが、上記の学歴がない場合でも実務経験を積んでいれば受験資格を得られるのでご安心ください。
この章では、学歴以外の受験資格を解説します。
3年以上の実務経験を積む
社労士の受験資格で求められる実務経験の業種は決まっているので、学歴要件を満たせない人は下記の業務で3年以上の実務経験を積むことが必要です。
- 労働組合の専従役員または従業員
- 日本郵政公社・年金公社などの役員または従業員
- 社労士法人・弁護士法人での業務補助
- 一般企業の人事労務担当など
- 自衛官
上記の業務経験を持っていても勤務時間が一定基準に満たない場合には受験資格から除外されます。
自分の業務経験が受験資格を満たしているかは全国社会保険労務士会連合会試験センターに問い合わせて確認しておきましょう。
行政書士の資格を取得する
学歴や業務経験3年という要件をクリアできない場合、あるいはできるだけ早く社労士の資格を得たい人に最適と言われているのは、行政書士の資格を取得することです。
社労士以外の厚生労働大臣が認めている国家資格を獲得している、または司法試験の予備試験か行政書士試験に合格しているなども受験資格に該当するからです。
特に、行政書士試験には受験資格に学歴と実務経験が必要ない上に社労士に役立つ法律用語などを学べるという利点があります。
通信制短大を卒業する
学歴を得るために学校に通う時間がない人や働きながら資格の勉強をしたい人には、通信制短大を卒業するという手段もおすすめです。
通信制短大なら通学する必要がなく、仕事や家事などのすきま時間に勉強し、社労士の受験資格に必要な学歴要件を獲得することが可能だからです。
学歴は業務経験ほど細かい規約がありませんが、念のために自分が候補にしている通信制短大が社労士の受験資格を満たせるかどうかを確認した上で入学しましょう。
社会保険労務士になるには社労士として登録を行う
社労士試験に合格するだけでは社労士にはなれないという点も覚えておきましょう。
社労士になるためには、試験に合格した後、資格要件を満たし、社労士名簿に登録しなければならないのです。
社労士登録の資格要件は、試験合格後に2年以上の実務経験を重ねること、または事務指定講習の受講です。このいずれかを満たしていないと社労士として登録できず、活動することもできません。
社労士の事務指定講習を修了することが実務経験2年以上に相当するので、早く社労士になりたい場合は事務指定講習を修了しましょう。
事務指定講習の申込期間は、毎年11月1日から12月1日です。通信環境があれば自宅でも受講できます。
社会保険労務士のキャリアパス
社労士になった後はキャリアアップをすることで地位と年収を高めていけます。社労士のキャリアアップに役立つ代表的なキャリアパスを見ていきましょう。
民間企業の人事や総務部門で働く
1つ目は民間企業の人事・総務部門で勤務することです。
第1段階では、3年から5年の間、人事労務担当者として給与計算や社会保険手続業務のほか、勤怠管理、福利厚生関連業務、異動管理、安全衛生管理、年末調整などを行います。
第2段階では、5年から10年の間に、従業員の育成や指導を含む部門マネジメントなどを行って人事労務の取りまとめを行います。
第3段階では、人事制度の採用・企画・運営・子会社の人事管理などの人事業務全般のマネジメントを行うという流れです。
総合会計事務所・労務コンサルティング会社に勤める
2つ目は総合会計事務所や労務コンサルティング会社に勤務してキャリアを重ねることです。
総合会計事務所には税理士・会計士・弁護士などその分野のプロが活動しています。そのプロと協力して多種多様な企業で勤務するクライアントからの相談や依頼に対応することで、社労士としての業務能力を向上させていけます。
労務コンサルティング会社は、社労士事務所や社労士法人での実務経験を5年以上重ねた後に勤めるのがベストです。労務コンサルティング会社で5年以上実務経験を積み重ねていけば、労務コンサルティング会社のパートナーになる、あるいは独立開業するという流れにできます。
社会保険労務士事務所や社会保険労務士法人
労務コンサルティング会社で勤務する前に社労士事務所・社労士法人で働く場合の流れを解説します。
最初の2年から5年はジュニアスタッフとして1号および2号業務(労働保険・社会保険手続きなどの代行業務)を主体にして基本業務をこなせるようにします。
ジュニアスタッフからシニアスタッフに移行した後は、1号・2号業務に加えてクライアントに対応するコンサルティング業務が務められるようになります。労務相談・人事制度の運用や改訂などで経営サポートを行い、社労士として更にキャリアアップを重ねます。
その後はクライアントだった企業の人事総務部門に所属するなどで人事労務業務を担当するという流れになるでしょう。
社会保険労務士の将来性
最近はIT化・システム化が進んだことにより社労士の仕事が減っていくという声が高まり「社労士になるのはやめとけ」という意見もよく見かけるようになりました。
しかし、社労士の仕事はITなどではこなせない仕事が多いので、将来性がないということはありません。
特に、コンサルティング業務の需要が高まっているので、コンサルティング能力を高めることでさらに幅広い活躍が見込めます。FPとのWライセンスやTOEICの点数を高めて外資系企業からの労務相談に応じられるようにするなど、さらなるスキルアップを図っていきましょう。
まとめ
資格取得条件が多く、資格試験の合格率も低く、今後需要が減少する可能性があることで「資格取得はやめた方がいい」という声も少なくない社労士ですが、社労士の独占業務も多いので将来性は十分にある仕事です。
仕事を安定して得られるようにWライセンスやTOEICなどでスキルを上昇させ、社労士としての価値を高めていきましょう。